行司の仕事とは

2017年11月1日

[三十六代 木村庄之助]の大相撲 行司さんのちょっといい話 (双葉文庫)

行司の仕事として一番目につくのは、やはり取り組みの時に力士2人の真ん中に立って、両者を合わせて「ハッキよい!」や「待ったなし!」という掛け声でスタートを指示し、勝った力士の名前を読み上げる姿だと思います。これだけだと、アマチュア相撲や地方大会の相撲などで蝶ネクタイをした主審と行っていることは変わらないと思いますが、烏帽子をかぶり、独特の着物を着て軍配うちわを持っている姿を見ると、大相撲の伝統を受け継いでいる雰囲気が漂い、ただの進行役とは、また違った仕事であることが分かると思います。ちなみに、掛け声をかけてスタートすると記述しましたが、厳密にいうと競技が始まるのは力士2人の呼吸が合って、自らの意思で立ち合ったときなので、行司がスタートを仕掛ける訳ではありません。このため、片方が飛び出したり、手がつかなかったりしたときに行司などが「待った!」をかけてやり直しになる光景が、しばしば見られるのです。また、行司が勝負を決めている訳でなく、最終的に勝負を決めるのは土俵下に控えている審判係の親方5人です。なので、行司が勝ちと見なしたことが、おかしいときは手を挙げて物言いをつけて話し合いを行司と共にした後に最終決定する流れを取ります。この時に、判定結果が覆った場合は行司差し違えとなり、昇進の際の減点対象にされてしまうことが多いです。ちなみに同時に力士が落ちるなどして、どっちが勝ったか不明な場合でも必ずどちらかに軍配を上げなければなりません。

この他にも、本場所では十両・幕内・横綱力士の土俵入りをする際に、先導する役割も担っています。さらに、「只今の決まり手は寄り切り、寄り切りで~の勝ち」という風に場内放送の殆どの声も行司が担当しています。本場所中は番付ごとに取り組みを毎日決めていますが、これを担当の親方と一緒に決めています。

これらのように声や進行役で有名な行司ですが、実は番付表などの書類を書くのも仕事の1つとなっています。そこに書かれている字は相撲字と呼ばれている独特な字体なので、行司になった場合は、何回も書いてマスターする必要があります。番付表に書かれている字体は小さいので、わかりにくいと思いますが、本場所を見に行った際には、本日の取り組みとして和紙に力士の名前が大きく書かれているのを掲げているので、それを見れば相撲字が、どんな書体なのかが分かると思います。

行司も、力士と同じように相撲部屋で生活をしています。そこでの仕事が多岐にわたり、いわば何でもできる事務員さんに近いと考えて良いと思います。具体的には、部屋の力士の名前を書くだけでなく、巡業の際に必要な宿舎の割り当てや移動手段のバスの手配などを熟したり、部屋の披露宴や千秋楽の打ち上げパーティーの受付係を担当したり、中には部屋の会計係を務めたりしています。

行司も力士と同じように序ノ口格行司から横綱に匹敵する立行司までの階級が存在しており、十両格行司以上から一人前と見なされて待遇も大きく異なります。例えば、本場所で番付が低い順に取り組みが進む中、十両格の行事が上がった時点で照明が一気に灯されたり、場内のアナウンスで名前が呼ばれたりします。さらに、取り組みの際に持っている軍配うちわの房の色が幕下格までは黒か青だったのが、十両格になると青白色になったり、白足袋を履いて土俵に入ることができるようになったりします。さらに、行司には木村庄太郎や式守与太夫等のように、代々受け継がれている名前が存在しており、通常は「第~代」という風に代数をつけて区別されます。これを名乗れるのも十両格以上になってからです。それまでは本名の下の名前が使われることが多いです。ちなみに、行司の最上位の名前が木村庄之助となっていますが、ここ1年以上は不在となっており、その次の式守伊之助が事実上の最上位となっており、現在は第40代です。

また、本場所が始まる前日に土俵祭が開かれますが、ここに行司は全員出席し、最高位の立行司が祭主を務めています。

これらのように行司の仕事は幅広く及んでおり、オールマイティーなことに対応する柔軟な心が必要ではないかと思います。